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sketch726

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10月16日
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私はバッハのシャコンヌのCDを少しずつ集めていますが、その過程で知った、加藤知子さんというヴァイオリニストのコンサートへ行きました。

NHKのクラシック番組などで演奏したり話をする姿を見てはいたものの、実演を聴くのは今回が初めてでしたが、とても素晴らしかったです。

もちろん技術も素晴らしいのだと思いますが、音楽に対する真摯な姿勢とそこからくる演奏家としての自身に対する要求の厳しさ、と同時に

音楽に対する愛情が一聴して感じられるのです。自分が望むものを得たいと思うがゆえに磨かれた芸、という素朴だが厳しい道を歩んでいる感じ。

なにより、音楽に(今まで積みあげてきた経験からくると思われる)余裕からくる悠々としたふくらみとコクが感じられ、これぞ一級品と思いました。

「芸術にお金を払って悔いなし!と思うのはこういう芸だよね」と感じました。私も芸で食べていきたいなら、このレベルの仕事をしないとダメだ、と。

 

私は自分の芸に対する動機が弱いので、自分が創る側であり続けるために、時々観賞する側に立ち、こうした素晴らしい芸(というか人)に

触れる必要がある、としばしば渇望するのです。そうして「やっぱり芸術は良いなぁ、ああいう芸を私もできるようになりたい。」と思えることが、

なにより私の原動力になるのです。(いささか他力本願で情けないですが)

 

シューマンやバッハの曲では、「演奏家が曲を弾いている」のではなく、「ヴァイオリンが演奏家に弾かせている」んじゃないかと錯覚を起こしました。

個人の自我が、ちょっと磨いた技術で楽器を上手に弾いている、などと感じてしまうような芸では、観客はその芸の世界に引き込まれないと思います。

何度も弾いていると思われる曲では、曲を我が物にしている余裕が素晴らしかったのですが、ブラームスはまだ余裕がなく、

我が物にはなりきっていなかった感じが少ししました。(当日購入の新発売のCDのほうは完成度が高く感じられましたが)

アンコールで奏でてくれたヴァイオリンの名曲「タイスの瞑想曲」「ツィゴイネルワイゼン」は余裕と貫録すら感じられ素晴らしかったです。

ストラディヴァリウスを朗々と奏でる音にも参りました。あれを聴いてしまうと、オーディオの再生音などで安易に追いつける代物ではないと思いました。

席も何故か最前列のど真ん中のチケットが取れ、音色的にはもう少し後ろの方が良さそうでしたが、私のために演奏してくれている様な錯覚が得られる

シチュエーションも強いインパクトがありました。共演者のピアニスト・江口玲さんもギルシャハムさんなどとの競演のビデオなどを観て

そのナイスアシストぶりを知っていましたが、今回も繊細な間合いの取り方や柔らかいタッチのピアノ演奏と愛機のオールド・スタインウェイで、

加藤さんの銘器ストラディヴァリウスとの素晴らしいコラボレーションを演じてくれました。

 

とても感銘を受けた私は珍しく演奏後のサイン会などに並び、二人のサインをもらって喜んで帰ってきました、とさ。

加藤知子

追記:加藤さんのヴァイオリンがストラディヴァリウス、ということのソースはこちらのブログからです。